「自分で遺言書を書いたけれど、これで本当に大丈夫?」

「せっかく遺言書を作成しても、無効になることがあるの?」

そのような疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

遺言書は、ご自身の財産を誰にどのように引き継いでもらうか、意思を残すための大切なものです。

しかし、法律で定められた方式を守っていなかったり、作成時の意思能力に問題があったりすると、遺言書が無効になることがあります。

また、遺言書自体は有効でも、書かれた内容によっては希望どおりに手続きを進められない場合もあります。

今回は、遺言書が無効になる代表的なケースや、自筆証書遺言を作成する際の注意点、無効になることを防ぐための対策について解説します。

遺言書が無効になるのはどんな場合?

遺言書が無効になる原因には、大きく分けて次のようなものがあります。

主な原因具体例
法律で定められた方式を守っていない日付や押印がない、本文をパソコンで作成した
遺言をするための意思能力がない作成時に遺言の内容や結果を理解できなかった
本人の真意に基づいていない他人に強制されて作成した
法律で禁止された方法で作成した夫婦が同じ1通の遺言書に共同で遺言した

ただし、実際に無効となるかどうかは、遺言書の形式や作成時の状況などによって判断が異なります。

まずは、自筆証書遺言で起こりやすい失敗例から見ていきましょう。

自筆証書遺言で無効になるおそれがあるケース

※法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する場合には、民法上の要件とは別に、用紙のサイズや余白などの様式上のルールがあります。これらは保管制度を利用するためのルールであり、遺言書自体の有効・無効を直接決めるものではありません。

自筆証書遺言とは、ご本人が自ら作成する遺言書です。

公証役場を利用せずに作成できる一方、民法第968条で定められた方式を守る必要があります。

① 日付が書かれていない

自筆証書遺言には、作成した日付を記載する必要があります。

例えば、次のような書き方には注意が必要です。

・日付を書いていない
・「令和8年10月」と月までしか書いていない
・「令和8年10月吉日」と書いている

特に「吉日」という表記では、作成した日が特定できません。

そのため、原則として日付の要件を満たさず、無効となるおそれがあります。

作成した年月日を具体的に記載することが大切です。

② 本文をパソコンで作成している

自筆証書遺言では、原則として、遺言書の全文を本人が自書しなければなりません。

パソコンで作成した遺言書を印刷し、最後に署名・押印するだけでは、通常、自筆証書遺言としての方式を満たしません。

ただし、2019年1月13日から、財産目録については自書しなくてもよいことになりました。

例えば、パソコンで作成した財産目録や、不動産の登記事項証明書、預貯金通帳のコピーなどを添付することができます。

この場合には、自書によらない財産目録の各ページに、遺言者本人の署名・押印が必要です。

なお、財産目録の両面に自書によらない記載がある場合には、両面に署名・押印が必要になります。

③ 署名や押印がない

自筆証書遺言では、原則として、遺言者本人による氏名の自書と押印が必要です。

例えば、本文と日付が自筆で書かれていても、押印を忘れていた場合には、方式不備として無効になるおそれがあります。

なお、法律上、自筆証書遺言に必ず実印を使用しなければならないわけではありません。

重要なのは、本人が作成した遺言書であることと、法律で定められた方式を満たしていることです。

④ 家族などに代筆してもらった

「高齢で字を書くのが大変なので、娘に代わりに書いてもらった」

このような場合にも注意が必要です。

自筆証書遺言は、原則として遺言者本人が自書する必要があります。

そのため、本人の希望どおりの内容であっても、家族などが本文を代筆した場合には、自筆証書遺言としての方式を満たしません。

なお、身体の状態などによって自書が難しい場合には、公正証書遺言など、別の方式を検討することができます。

⑤ 訂正方法が法律のルールに合っていない

自筆証書遺言では、間違った箇所を自由に書き直せるわけではありません。

民法では、訂正や加筆などの方法についても定められています。

原則として、変更する場所を示し、変更した旨を付記して署名し、変更箇所に押印する必要があります。

この方式を守らない変更は、効力が認められないことがあります。

ただし、訂正方法に不備があるからといって、必ず遺言書全体が無効になるわけではありません。

訂正箇所や変更の内容によって判断が異なります。

誤記を防ぐためにも、内容を十分に確認してから作成することが大切です。

夫婦で一緒に遺言書を作ると無効になる?

「夫が亡くなったら妻へ、妻が亡くなったら夫へ、すべての財産を残す」

このように、夫婦で将来の財産の承継について話し合うことは大切です。

しかし、民法第975条では、2人以上の方が同一の証書で遺言することを禁止しています。

これを「共同遺言の禁止」といいます。

そのため、夫婦が1通の遺言書にそれぞれの遺言内容を書いて、共同で遺言することはできません。

一方、夫婦それぞれが別々の遺言書を作成することは可能です。

例えば、

・夫は「すべての財産を妻に相続させる」
・妻は「すべての財産を夫に相続させる」

という内容を、それぞれ別の遺言書に記載することができます。

認知症になると遺言書は作成できない?

遺言書を作成する際には、遺言の内容や結果を理解できる意思能力が必要です。

民法第963条では、遺言者は遺言をする時において、その能力を有しなければならないと定められています。

そのため、遺言書を作成した時点で必要な意思能力がなかった場合には、遺言が無効となる可能性があります。

ただし、認知症と診断されているからといって、それだけで必ず遺言書を作成できなくなるわけではありません。

実際には、認知症の程度や遺言内容の複雑さ、作成時の本人の状態などを踏まえて判断されます。

また、成年被後見人が一時的に事理を弁識する能力を回復した場合については、民法第973条に特別な規定があります。

遺言書を作成する際には、本人がご自身の意思で内容を理解し、判断できる状態にあることが重要です。

そのため、元気なうちに遺言書の作成を検討しておくことをおすすめします。

家族に言われて作成した遺言書は有効?

遺言書は、遺言者本人の自由な意思に基づいて作成される必要があります。

例えば、家族から強い圧力を受けたり、脅されたりして遺言書を作成した場合には、法的な問題が生じることがあります。

ただし、家族から遺言書の作成を勧められたというだけで、当然に無効になるわけではありません。

本人が内容を理解し、自らの意思で作成したかどうかが重要です。

また、本人ではない第三者が遺言書を偽造した場合には、本人が作成した有効な遺言書とは認められません。

公正証書遺言なら絶対に無効にならない?

公正証書遺言は、公証人が関与し、法律で定められた方式に従って作成する遺言書です。

そのため、自筆証書遺言と比べて方式不備が生じにくく、原本が公証役場で保管されるという特徴があります。

しかし、公正証書遺言であれば絶対に無効にならないというわけではありません。

例えば、遺言者に必要な意思能力がなかった場合や、本人の真意に基づいていない場合には、有効性が問題となることがあります。

また、公正証書遺言では、証人2名以上の立会いなどが必要であり、証人になれない方についても法律で定められています。

例えば、推定相続人や受遺者、その配偶者や直系血族などは、原則として証人になることができません。

公正証書遺言は有効性を確保するための有力な方法ですが、作成時の本人の意思能力や法律上の要件が重要であることに変わりはありません。

遺言書は有効でも、希望どおりにならない場合がある

ここまで、遺言書そのものが無効になる可能性のあるケースを紹介しました。

しかし、遺言書自体は有効でも、記載された内容によっては、希望どおりの結果にならないことがあります。

この違いも理解しておくことが大切です。

① 遺留分を侵害する内容になっている

例えば、「すべての財産を長男に相続させる」という遺言書です。

次男に遺留分が認められる場合でも、その遺言書が直ちに無効になるわけではありません。

ただし、次男から長男へ遺留分侵害額請求が行われる可能性があります。

📝 遺留分とは?遺言書を作るときに知っておきたい注意点

② 遺言書に書いた財産が既になくなっている

例えば、「所有する○○市の土地を長男に相続させる」と遺言書に書いていたものの、遺言者が生前にその土地を売却した場合です。

この場合、遺言書自体がすべて無効になるわけではありません。

しかし、売却した土地については、遺言の内容をそのまま実現することができません。

また、財産の処分と遺言内容が抵触する場合には、法律上、遺言の該当部分を撤回したものとみなされることがあります。

財産の状況が変わったときには、遺言書の内容を見直すことが大切です。

③ 誰に何を残すのか特定できない

例えば、

「世話になった人に預貯金を渡す」

とだけ書かれていた場合です。

このような記載では、誰にどの財産を残すのか明確ではありません。

遺言書の内容は、本人の意思を合理的に解釈して判断されますが、記載が曖昧な場合には、相続人間で争いが生じたり、必要な手続きを進められなかったりする可能性があります。

そのため、財産を受け取る方や対象となる財産は、できる限り明確に記載しておくことが重要です。

④ 後から別の遺言書を作成している

遺言書は、一度作成したら変更できないものではありません。

後から新しい遺言書を作成し、以前の遺言と異なる内容を定めることもできます。

この場合、原則として、前の遺言と後の遺言が抵触する部分については、後の遺言で撤回したものとみなされます。

そのため、複数の遺言書が見つかった場合には、作成日や内容を確認する必要があります。

法務局に預けた遺言書なら有効性は保証される?

法務局には、自筆証書遺言書を保管する制度があります。

この制度を利用すると、遺言書の紛失や改ざんを防ぐことができ、一定の方式について外形的な確認を受けられます。

また、法務局に保管された遺言書については、相続開始後の家庭裁判所による検認が不要になります。

ただし、法務局に保管されているからといって、遺言書の内容の法的な有効性が保証されるわけではありません。

例えば、作成時の遺言能力や遺言内容の解釈について、後から問題になる可能性もあります。

法務局の保管制度を利用する場合にも、遺言内容が適切かどうか検討することが大切です。

遺言書の検認を受ければ有効になる?

自宅などで保管されていた自筆証書遺言については、原則として、相続開始後に家庭裁判所で検認の手続きが必要です。

しかし、検認は遺言書の有効・無効を判断するための手続きではありません。

検認は、遺言書の存在や状態を確認し、偽造や変造を防ぐための証拠保全手続きです。

そのため、検認を受けた遺言書であっても、その有効性が後から争われることがあります。

なお、公正証書遺言や法務局の保管制度を利用した自筆証書遺言については、検認が不要です。

遺言書を無効にしないために気を付けたいこと

遺言書を作成する際には、次のような点を確認しておきましょう。

1.法律で定められた方式を守る

自筆証書遺言の場合には、本文の自書、日付、署名、押印などの要件を確認します。

2.ご自身の意思を明確にする

誰にどの財産を残したいのかを整理し、曖昧な表現を避けます。

3.判断能力が十分なうちに作成する

遺言書は、ご自身の意思を理解し、判断できるうちに作成しておくことが大切です。

4.財産や家族の状況が変わったら見直す

結婚、離婚、相続人の死亡、不動産の売却などがあった場合には、遺言内容を確認します。

5.専門家のサポートを検討する

遺言書の方式や財産の指定方法に不安がある場合には、司法書士などの専門家へ相談することも方法の一つです。

まとめ|大切な意思を確実に残すために

遺言書は、ご自身の財産の引継ぎについて意思を残すための大切なものです。

しかし、法律で定められた方式に不備があったり、作成時の意思能力に問題があったりすると、遺言書が無効になる可能性があります。

また、遺言書そのものは有効でも、内容が曖昧だったり、財産の状況が変わったりすることで、希望どおりに手続きを進められない場合もあります。

遺言書は、作成することだけが目的ではありません。亡くなった後に、ご自身の意思が適切に実現されることが大切です。

そのためにも、法律上の要件を確認し、ご自身の希望や財産の状況に合った遺言書を作成しておくことをおすすめします。

よくあるご質問

いいえ、自筆証書遺言には、法律上、必ず実印を使用しなければならないという決まりはありません。

認印による押印でも、法律上の要件を満たすことは可能です。

ただし、遺言者本人が作成したことなどをめぐる争いを防ぐためにも、方式を正しく守ることが大切です。

必ずしも全部を書き直す必要はありません。

ただし、自筆証書遺言の訂正や加筆には、民法で定められた方式があります。

訂正方法に不備があると、変更部分の効力が認められないことがあります。

特に財産の内容や受け取る方の氏名など、重要な部分を間違えた場合には、訂正方法を十分に確認するか、新たに作成し直すことも検討しましょう。

法務局の自筆証書遺言書保管制度では、遺言書の形式について一定の確認が行われますが、内容の法的な有効性までは審査されません。

例えば、誰にどの財産を残すかという記載の適切さや、遺留分に関する問題などについて、法務局が保証するものではありません。

内容に不安がある場合には、保管申請前に専門家へ相談することをおすすめします。

公正証書遺言は、公証人が関与して作成するため、自筆証書遺言と比較して方式不備が生じにくい方法です。

ただし、公正証書遺言であっても、作成時に必要な遺言能力がなかった場合などには、有効性が問題となることがあります。

そのため、公正証書遺言を作成する場合でも、本人の意思を明確にし、財産の内容や相続人の状況を確認しておくことが大切です。

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